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未完成 * 凪良ゆう

すっっっごい良かった…!もう大号泣でした。物凄く切実でひたむきな恋愛の話でした、二人の気持ちが凄くリアルで、特に主人公の高校生の未熟さ、必死さは、他所事にできないくらいに身に覚えのある感情で、幼すぎる甘さとひたむきさを、遠くから眺められないほどに、書かれてある感情が理解できてしまって、どこにも持って行き場のない恋心がとても切なかった。
読んでいて、ああこの感じ分かるって思ったり、この文章凄く好きだって思ったり、思わず頷いてしまうフレーズ、真実だと思う事がたくさんあって、自分の十代の時の浅はかさを嫌と言うほど思い出したし、だからこそ、ここに出てくる高校生を笑えなかったし、感情をぶつけられる年上の人の事を考えると、胸が苦しくなるような感じがしました。
全然他所事の感じがしない、身を切られるように切実でした。
あー…すっごくいい小説だった…!!


以下ネタばれます。




両親の不仲と、目的のない退屈な日々に焦燥を感じながらも、溜まる鬱屈をどうすることもできず、近寄ってくる女と簡単に寝てはすぐに捨てるという事を繰り返している高校生の瀬名。彼は偶然、自分の学校の英語教師、阿南がゲイである事を知ってしまう。退屈を紛らわす為の気まぐれで、ゲイである事を学校にバラすなんて脅して見せるんだけど、阿南は全く動揺せずに、からかい半分の瀬名をキツイ態度で追い払う。
瀬名は、見た目はとても綺麗で学校では当たり障りのない態度の阿南の、意外な一面を知ってしまってから阿南の事が気に掛かって仕方がない。初めはただ阿南に構って欲しいだけ、彼を構いたいだけで付きまとう瀬名だけど、阿南はとても辛辣で、瀬名のいい加減さや、逃げや、甘さを簡単に指摘しては、瀬名を邪険にする。それは瀬名にとっては、初めての言葉だったり、考えた事もないような言葉だったりする。父親との不仲でヒステリー気味の母親のいる家に帰りたくない瀬名は、阿南と一緒にいたいと思うようになり、やがてその気持ちが、恋だと気付く。
気付いて、阿南が欲しいと思った途端にもう自分を止められず、瀬名は強引に、だけど子供が甘えるように、阿南に告白し、縋るように彼を求める。
阿南はそれを拒否しながら、瀬名を鋭い言葉で諭しながらも、それでも欲しいという瀬名のあまりに後先を考えない一途な真っ直ぐさにほだされてしまって、好きだと言う気持ちには答えないが、体だけを許す。
二人の体の関係はそれからも続いて、瀬名はますます阿南に夢中になるんだけど、どうやっても阿南は自分を好きになってくれない。どうしたら阿南の心が手に入るのかと必死になる瀬名の毎日は、阿南一色に染まる。阿南の前では瀬名は少しも格好がつけられない。これまで女の子には凄くモテていて、自分が何もしないでも勝手に向こうから何でもしてくれて、媚びてくれて、自分はいつも高い位置から彼女達を見下ろしていたのに、阿南は少しも思い通りにならない。カッコいいところを見せたくても、10も年上の阿南の前で瀬名はただの子供で、高校生で、いつでも阿南に嫌われたくなくて、立場的にも弱い。瀬名は初めてそんな恋を知ることになる。
そんな時、いつ壊れてもおかしくなかった両親の仲が決裂、離婚することになり、瀬名は母親とともに田舎に引っ越すことになってしまう。阿南と離れたくない瀬名は必死で抵抗する。阿南と一緒にいるために、学校をやめて一人でこの町に残ると言い張るんだけど…。

という話でした。
ほんっとうに、良かったです。嘘がひとつもないというか…。何を嘘と言い何を真実というのか…は、人によって全く違うんだろうけど、私はこの小説の中には嘘を感じなかった。
瀬名の、あまりに身勝手な言動、欲求、浅はかさ。まだ17歳という年齢で、色んなところが凄く未熟で、誰かを好きになってしまったら、その人が世界の全てになってしまう、その人の事が好きだというこの気持ちのみで、世界を潰してしまえる…そういう、17歳の熱みたいなものが、物凄く真摯に描かれてあったと思う。
私にも似たような経験がある。十代は未熟です。浅はかです。後で考えれば、どうしてあんなに目の前しか見えなかったのか、と思い出したくもないような恥ずかしいことを平気でやってしまったり、平気で一時の感情で全てを捨ててしまう。捨てられると思っている。
この小説でも瀬名が阿南の友人に言われていて、すごくズキンと来たんだけど、ああしたらこうなる、こうしたらああなるという事が全然考えられず、相手が崖から落っこちるまで追い詰めるって。
なんて痛い言葉だろう、だけどその通りだ…。
瀬名は一生懸命に阿南を好きだけど、それ以外の事が全く考えられない子供で、その事がとても悲しくて、だけどどうにもしようのない事だと思えた。瀬名の気持ちは本物なんだけど、その気持ちがどれだけ本物だったとしても、本物だったら上手く行くって訳でもない。
でもそれを瀬名が分からないのも、仕方がないって思えるんです。17歳だからです。
子供だから何をやっても許される訳じゃない。勿論、許される訳じゃないです、瀬名はたくさん阿南を振り回した。振り回している事にも気付かない、自分が一番辛いと思っているから。悩んでいるのも苦しいのも、恋しているのも自分だけ、10歳も年上だから、27歳だから、阿南は傷つかないと思っている。阿南にも、自分と同じような柔らかい心がある事を思いやってやれない。
そういう自分の身勝手さに気付くのは、色んなことを経験した後だと思う。誰かを傷つけて、傷ついて、初めて見えてくる自分と言うものがある。17歳の身勝手さ、誰かを傷つけたという過去を、胸に刻んで、後悔して大人になるんだと思うんです。
誰が悪いとか、悪くないとか言うことではなく、仕方のない事だったんじゃないかって、思うんですよ。両方にとって。

こういう小説、年上の人が若い恋人を信じられず逃げたり別れようとしたりする話を私はよく読むんだけど、大抵はね、これだけ好きだと訴えているものを、なんで信じてやれないんだと腹を立てるんですね、逃げる年上に腹が立つ。
だけど、この小説はそんな風にはこれっぽっちも思えなかった。瀬名を信じない、未来を怖がる阿南の気持ちが、物凄く分かる。それは、読んでて私も、瀬名を信用できなかったからです。瀬名の一途さはよく分かる。阿南の事をどれだけ好きかもよく分かる。だけど、こんなに目の前の事しか見えていない、今の自分の現実から逃げて、阿南の元へ行けば幸せになれる、逃げられると思い込んでいる瀬名を、信じる事はできないよ。どこへ逃げたって、自分が変わらない限り状況は変わらないんだからね。
瀬名の一途さが怖い。こんな風に今しか見えてない瀬名を受け入れる事が怖いし、彼に夢中になって捨てられるのも怖い。特殊な環境だから、教師と生徒という禁忌だから燃え上がる感情ってものは確実に存在する。阿南はよく分かっているんだと思う。そんなの怖いに決まっている。どんだけ好きでも、瀬名と一緒になれる訳がない。阿南が泣きながら、怖い、瀬名を選ばないというシーン、胸が痛くて痛くて痛くて、本当に今これ書いててもちょっと泣いてますけど私、号っ泣でした。凄く切実な言葉とシーンだったと思います。

二人ともの気持ちに、本当に嘘がなかった。どっちも一生懸命で、本物だという事は分かる。
だけど、気持ちが本物だったら結ばれるかというと、必ずしもそうじゃない。時期というものがあるし、状況と言うものがある。
その時期や状況が見えずに、泣き喚いた十代の自分が瀬名に凄く重なって、理屈ではわかっても感情で全く受け入れられない、年上の人の正論を認めたくなくて我侭を言って、泣いて拗ねて…という事を繰り返した事も思い出しました。
瀬名が、阿南に拗ねたり甘えたり八つ当たりをしたりして、とにかく感情の全てをぶつけるんだけど、ぶつけた後に嫌われるのが怖くてごめんね嫌わないで、と謝って縋るんですよね。
阿南はずっとずっと瀬名を受け入れないんです。凄く意志の強い男だと思う。流されず、自分の立ち位置をずっと守っていた。だけど、そんな風に隠さない感情を真っ直ぐぶつけられて、心が揺れない訳はないし、平気でいられる訳がない。平気な顔を作って、気のない風を装って、だけど本当はどれだけ苦しんだだろう。自分の気持ちを持て余して、解放できないことに苦しんで、縋り付いてくる瀬名に安心して、そしてその反面とても怖かっただろうと思うんです。受け入れたいけど、絶対に受け入れられない。色んなジレンマで、阿南は凄くもがいていたんだろうと思う。
瀬名がバイトで連絡を入れなかった四日間のくだりや、ドライブコースを阿南が調べていたこと、その辺ももう切なくて切なくて。決して瀬名に打ち明けることができない気持ちを、阿南はどんな風に押さえ込んだんだろうって。だけどそれでも、子供の小さな見栄やプライドに、阿南は付き合っていた。
本当に優しい男だと思う。
そういう優しさに、気がつけないのもまた17歳…。

阿南の言葉が瀬名に響くのは、瀬名が阿南を好きだから。
信じられる人、夢中になれる他人、そういったものを持たなかった瀬名にとって、阿南の存在がどれだけ大きかったか。阿南が居たから瀬名は変われたんだと思うし、それにしてはとても大きな代償をお互いに払ったけど、もしも瀬名が本当に阿南を失っていたら、17歳の恋の記憶は、これから先もずっと瀬名を苦しめただろうと思う。五年間瀬名を縛り付けていたように。
だから最後、瀬名が成長して、阿南の本当に気付けた時にまた、大号泣してしまって、もう大変だった、あたし…。

いい文章がいっぱいありました、ほんと印象的な文章がたくさんあって…いちいち覚えていたいくらいだったんですが…まあたちまち無理ですね。
でも本当にいい小説でした。先生受か、読んでみよ。と全然期待せずに購入した一冊だったんですが…すごいいい出会いでした。
凪良ゆうさんか…こりゃ絶対に他のも読んでみなきゃ。
…と思ったんだけど、タイトルに花嫁とか姫とか書いてあるのが多いので、悩ましいところです。
あの、これに限らずいつも思うんだけど、そもそもなんで男が主人公の話のはずで、タイトルに"花嫁"とか"姫"とかつくわけ?もうそこからして読む気がしなくなるんですけど、まあそれは置いといて、他にも少しあるようなので、絶対に読んでみます。





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Catergory in [novels]凪良ゆう comments(2) -
Comment
ヨルコ says : at 2009/08/06 21:59
kaedeさんこんばんは、いつもありがとうございます。

凪良ゆうさん、初めて読んだんですが、本当によかったです!凄い号泣してしまったので、他のも読んでみたいです。

『恋愛犯』と『夜明けには優しいキスを』ですね、分かりました絶対読みます。
『初恋姫』ってタイトルだけ見ると倦厭してしまいそうなんですけど、Kaedeさんが泣かれたのなら私も泣きそう…。
これも読んでみます。

色々教えてくださってありがとうございました。
楽しみ増えました!

kaede says : at 2009/08/06 21:06
こんばんは。

凪良さんの小説はどの本も気持ちの流れというものがしっかり書かれてて、とても好きです。
どんなに突拍子もない設定でも、丁寧に心の動きを書いてくれるので、のめり込んで読んでしまいます。
初恋姫の後半などは切なくて幾度も泣いてしまいました。
「恋愛犯」や「夜明けには優しいキスを」も本当にいい文章がちりばめられてて、お気に入りです。
私も未完成というタイトルに惹かれて手にとった作家さんでした。
読み終わる頃には号泣で、いい本を読んだ!と凄く満足しました。
十代の頃の気持ちが蘇ってくるような生々しさがありますね。

他作品もおすすめです。
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