Archives by Month:
Archives by Category:
Entry: main  << >>

宇田川町で待っててよ。 * 秀良子

え〜…す・ご・か・っ・た…!!!!
本当に本当に本当に、凄かった。物凄いものを読んだ気がした。いまだかつて出会った事がない、いまだかつて読んだ事がないオリジナルの素晴らしさがここにあったよ。
才能が爆発していた。センスが爆発していた…。
こんな凄いものにどう感想書けばいいか分からないけど、感想だから思ったことを書こう。

や〜…ちょっと本当に…秀・良・子!!!
すごい…凄かったわ〜…。や〜…面白かったんですけどもね、物凄い息苦しいんですね、何かが胸の中に溜まっていくような、急かされるような…とても落ち着いて読めないような、じわじわと首元を圧迫されていくような、甘苦しい熱が描かれていたんですよね。眩暈がするみたいな。傷口を増やすような…。
何だろう本当に、とにかく、熱っぽかった。

表紙見て分かるように、女装する男の子の話なんですね。それと、彼を好きな男の子の話。
物凄い繊細ですよ、心の中を赤裸々に描こうとすればするほど、単純な言葉には当てはまらなくなっていく。そのまま描こうとすればするほど、言葉は邪魔になるのかもしれない…。言葉にすると、少しずつ、本質からずれていく気もするし。
言葉で説明しない、できない、この子達の心の色、心の熱。
それをね、一冊かけて、例えば表情や佇まいで、繊細に生々しく、表現していた気がするなあ。
ノーマルとアブノーマルの境目というか、純愛と、性愛の狭間というか…。
そういうものを、苦しい思いをしながら、募る恋心に身を焦がしながら、この子達が体現してくれているようなマンガで、私なんだかもう、胸が凄く痛かった。
あんまりにも赤裸々で、覆うものが何もないから傷口がむき出しになっている気がして、見ているこっちが痛くなるんですよね。

いやもう…色々言ってもあれなんで、以下ネタバレしつつ感想を書きます。
うまく言えないので、思ったことをもう書き殴ります。




うーん…一言ではなかなかうまく言えないし、感じた事をそのまま言葉にするのも凄く難しいんだけども…。
お話は、百瀬っていう他人の目を全く気にしないマイペースな男の子がいるんだけど、この子がある日街で、女装したクラスメイトの男子を発見してしまうんです。八代っていう男の子なんだけど、クラスでは凄く普通の子で、彼女とかも全然いそうな、クラスの中心グループにいるような子。百瀬は八代の事が気になって仕方がない。女装した八代の姿が脳裏に焼き付いて離れない。
自分が見間違いしたのではと疑って、百瀬は確かめるためにもう一回日を変えて、同じ場所に行ってみる。
そうしたらやっぱり八代はいた。女の姿をして立っていた。
百瀬は衝動的に女装姿の八代に声を掛ける。そして、自分でも無意識に、付き合ってください、と交際を申し込んでいた。

…というところから始まるんですね。
ぶれない百瀬と、戸惑う八代。ずっとこういう構図なんですよね。百瀬はもう一貫して、八代を口説くんです、…たぶん、何故女装した八代を好きになったのか、何故本物の女子ではなく、男の姿の八代でもなく、女装した八代だったのか…。これ、百瀬にも分かってないと思うんですよね、読んでいてもなぜかは分からない。
ただ、落ちたんだと思うんですよね、恋に。一目惚れしたんだと思う、女装をして、たぶんギリギリのところにいた八代に。どこにも行けず、どこにも属せず、自分の気持ちすら分からない、何がしたいのかもたぶん分かってない八代の危うさみたいなもの…それが、八代から放たれていたのではないだろうか…。百瀬はそこに引っ掛かったのではないだろうか。
まあそれは私が考えることなので、とにかく百瀬本人はきっと気付いてはいないし分かってはいないし、そこを考えるような男じゃないと思うよ、そんなのきっとこの子には必要ない。
ただ、否応なく、恋に落ちたんだよね。
その百瀬に迫られて、八代は勿論戸惑う。
さっきも書いたけど、八代だって、何故女装をするのか自分でもこの時点では分かってないと思うんですよ。でもやめられない。これまでノーマルだったのに、アブノーマルに一歩踏み出しそうになっていて、でもギリギリのところで、まだノーマルに戻れるときっと思っている。やめようと思えばいつでもやめられる、そんな場所に立っていたんだと思う。まさに狭間に。

そんな時に、百瀬は声を掛けてきた。男だと分かった上で、クラスメイトだと分かった上で、揶揄うでもなく、はにかむように、赤い顔をして。
百瀬の「付き合ってください」「可愛い」という一言は、"まだ戻れるかもしれない"場所にいた八代を、どんっと一歩、戻れない場所に追い込んだんじゃないかと思うんです。追い込んだ……いや、一歩踏み出す切っ掛けをくれたというべきか。ノーマルに止まるか、アブノーマルに踏み出すか、どっちが幸せかというのは、他人が決めることじゃないもんね。
でも、「かわいい」と言われてしまったことで、八代の中で燻っていた、何かはっきりしない女装への欲求の根源に、ゴーっと火がついてしまった気がするんですよね。はっきりしなかったものに、形がついたんじゃないだろうか。
"自分は愛されたい、可愛がられたい、受け身でいたい"…という形が。

たぶんこの子は、ずっと紙一重のところにいた。
女装させた元カノは切っ掛けに過ぎなかった。女装が、八代の扉を一つ、開いてしまったというだけの話で。
でも、八代にその自分の欲求を見せたのは百瀬だと思う。

たぶん、八代は特別な子ではないと思う。凄く普通の子だと思う。
高校生活を送っている八代を見てると、凄くありふれている感じがして、感覚も普通ですよね、世の中がおかしいと思うことがこの子にも感覚的に分かっていて、その価値観で自分を判断していて生きている。常識を知っている、たぶん。
けども、どこかの境界を越えたら、そのライン一本で…この場合女装をするという、そこのライン一本で、一瞬で、マイノリティになる。そこんとこの境目がさ…凄くなんつうんだろうなあ、残酷と言うか…。自分の本質を簡単に表に出してしまえないって事が…そんでそれがタブーな事であればあるほど、生きていくのはきっと難しくて、八代が誰を不幸にするでもないのに、ライン一本で向こう側とこっち側に分かれてしまう現実っていうのを、考えてしまったよね…。向こう側とこっち側に分けているのはきっと、私を含めた世間なんだろうなあ…。
ちょっと話がそれたけど。
でもね、例えばこの百瀬だってさ、女装しないだけで、少数派ってことで言えば相当な少数派だよ。こんな子、そんなにはいないと思うよ。こんな感覚を持った子なんて。世間の価値観に縛られない。自分が可愛いと言ったものが断然可愛い。自分の感覚だけにこんなに素直でさ、他人がそれをどう思うかなんて、この子には全く意味がないんだもん。
でも、少数派ではあるけども、この子だって八代と同じように、特別な子という訳じゃないと思うんですよね、やっぱり当たり前の感覚を持って、傷つき恋する高校生である事に変わりはない。
だからあの…"普通"ってことと、一歩はみ出るということの境界みたいなことを、凄く考えたんですよね。

女装をする…ってことね、私は女で男の格好をしたいと思わないし、やっぱり八代の気持ちは理解できないんですよ。でも八代は、女装っていうよりも、可愛いって言われる事への強い憧れがありますよね。可愛がられたい…というところから来る女装なのかなあ…と思えば理解できる気がしないでもない。
でもまあ、そんな、男子が女装したい気持ちを私が理解しようがしまいが、そんな事はどうでもよくて、大事なのは、ここに描かれている八代という男の子が、自分をどう扱って欲しいか、どう見られたいか、どこに行きたいか…っていうのが、痛々しいほどに伝わって来るってことなんです。
一貫してなんつうか…曖昧なところを曖昧に書いてないのが凄いなあって思ったんですよね。
八代の直接的な欲望みたいなものが、言葉じゃなくその他の色んなことで、赤裸々に描かれていて、遠回りなのに凄い率直なんですよね表現が。包み隠さなすぎて、もう居たたまれない。
例えば八代が、百瀬の身体が自分より大きいってことに凄くときめいてるじゃないですか。
だから、そういう事なんだよね。可愛いものとして扱われたい、庇護されたい。抱かれたい。たぶん、自分より大きな腕に抱かれて、押さえ込まれて、愛されたい…という直接的な欲求。
それはあまりにそのまま描かれていて、胸を掻き毟られているような気持ちになるんですよ、読んでて逃げ場がないの。そういう描写というかが、とにかく凄いマンガだったんですよね〜。

で、百瀬。
百瀬も大概面白い奴だったよなあ。恋に落ちた後の猪突猛進ぶりが…
八代は男を好きになった事なんかこれまでになくて、だから百瀬をそういう意味で意識するわけがなくて、初めは怖い怖いって逃げるんですよね。
百瀬が面白いのは、決して八代にとって都合のいい男じゃないってとこなんですよね。
言葉は少ないしマイペースだけど、心があって、傷つくし、怒るし、行動する。決して、八代という女装趣味の男に、宛がわれただけの恋人役ではないという所がまた、このマンガの面白いところだった。
百瀬のままならなさっていうのもちゃんとあるんですよ。
例えばこの子、クラスメイトの顔を覚えてませんでしたよね。自分の興味ある事意外、全く興味を示さずに、周りの視線も気にせずに、自分の世界だけで生きている。
高校生の今、この子はこれでいいのかもしれない。でも、きっと、生き難い。一生このままで生きていければいいかもしれないし、よき理解者に出会えれば人生は変わるかもしれない。けど、出会えなければきっと、自分が苦しむ人生を送る。
こういう百瀬の不器用さっていうのか…身勝手さ。この子相当身勝手だと思うんだけど、そういう足りない部分もね、百瀬の切なさだと思いますよ。
この子にはこの子の生き難さがある。私はその生き難さ、不器用さもなんだか、やるせないなあと思ってしまったよ。
まあ、周りを気にせずにいられるというのは持って生まれた強さなのかもしれないし、それを武器にして強く生きていけるかもしれないけどね。でもきっと、損する事もたくさんあるだろうなあ。

こういう百瀬みたいな子が現れた事は、八代にとっては物凄く…さっきも書いたけど…それをラッキーと取るか、不幸の切っ掛けと取るかはまあ決められないんだけどさ。
ただ、もしも八代が生きてく上で、誰かに可愛がられたいという欲求を、ずっと持ち続けて苦しむのだとしたら、百瀬のような男と出会えた事は、幸せ以外の何者でもないとも思うんですよね。
百瀬は八代を、男だと知った上で、女装をした姿を誰よりも何よりも可愛いという。惚れ抜いて可愛いと言って抱いてくれる。八代にとってこれ以上の恋人がおろうか。

きっと他人には分からない、この子達にしか分からない。
この子達の間だけこんなに幸福。似合わない女装を見て好きだ愛しいと興奮できる男、似合わない女装で同性に可愛がられたい男。
世の中から見たら、理解されないこんな二人の間に、世にも純粋な愛情が流れている気がして…。
いや、純粋な愛情ってなんだろうな。
恋ってなんだろうね。
二人とも、情熱と興奮に流されているだけって気もするし。でも、恋なんてそんなもんだという気もする。
男を好きになった事なんかない八代が、可愛いと言ってくれる、自分よりガタイのいい百瀬に抱かれる自分を心のどこかで夢見て絆される。
その絆される心の動きを恋とは言えないような気もする。自己中心的な勝手な思いなのかもしれない。
けども、何回も言うけど、全ての恋が所詮そんなもんなんじゃ、とも思うんですよね。そんなもんで十分だし。恋だと思ったら恋なんだし。私は恋に、本物も偽物もないと思っています。
ただ、切っ掛けはどうであれ、続けばそこに強い気持ちは生まれるだろうな。このマンガにあったように、八代は百瀬に抱かれるうちに、百瀬に対する強い恋心を自覚するようになる。気がついたら紛れもない恋を、百瀬にしている、と思う日がやってくるんだろうな。

八代が百瀬に引き摺られていく過程がまた、何とも熱っぽかったですね、凄くドキドキした。
可愛いと言われるごとに、突き放せなくなっていく。突き放せないのはさっきも書いたけど、そういわれたい自分自身だよな。いざセックスするってなった時に、怖いと言って拒絶する八代が、愛されたい抱かれたい自分を自覚するのを恐れているように、百瀬は八代にとって、自分の隠れていた本性を、性癖を、映し出す鏡のようなもので、百瀬が自分を可愛いといえば言うほど、そう言われたい自分に八代は気付いて、その心地よさに気付いて、気付けば気付くほど、戻れなくなっていく。
八代がそれを知っていく、自覚していく過程がね、面白くもあるんだけど、凄くかわいそうというか、逃げ場のない場所に追い込まれていくようで、不憫というか切ないというか。だって、百瀬に対して性的な興奮を覚えて、それを知られたら死んでしまうというくらいに、自分の本性を恐れているんですよ、この子…。かわいそうじゃないですか、そんなにまでも自分の本当の欲求を押さえ込まなきゃいけないなんて。
でも、不憫だなと思う反面、不思議と心地よさもあるんですよね、苦しんでいる八代にゾクゾクするような、早く認めて百瀬に抱いてもらえ!!って、八代の性を解放してやりたいという期待もあるし。

結局八代は恐れていたものを目の前に持ってきて受け入れてしまったし、百瀬は大好きな人を手に入れた。
けども、なんだろうね、なんでこんな一抹の切なさが残るんだろうね。
教室に取り残された彼らの友達二人がね、なんだか凄く切なくて。
誰もが恋をしたり、新しいステージに上がったりすると、それまでの自分から変わらないといけない事もあるし、それまで持っていたものを捨てなければいけない時も訪れる。
けど、それが、十代の、高校生の、今なのか?
と、自分たちだけにしか分からない幸福に落ちようとしている…もう落ちたのかな、そんな彼らを見ているとね、不安も覚えるんですよね。
たぶんゴーっと凄い勢いで嵐のように流されてしまう感情や、流されてしまう時期っていうのがあって、十代のこの子達が知ってしまった、もう一つの扉は、存外に、開けてはならないパンドラの箱だったのではいだろうか…などと考えてしまったなあ。
今、きっと情熱に流されて幸せなこの子達の、行く末がとても怖い。せめて彼らが、今後傷つくことが少なければいいって切に願うよ。
今にも傷つけられて幸福を奪われそうだし、熱に浮かされて手に入れた恋に、ふっと冷める日がやってくるのではなかろうか…。
なんて、幸せを信じられない程に、心模様が真に迫っていた。

あと百瀬のねえちゃんが面白かったですねえ…。凄い強烈でしたよ、百瀬も大概だけど姉ちゃんも姉ちゃんだよ。八代の元カノもそうだけど…女って本当に図太い生き物だよね。でもそこが女の良さだと思うよ、なんつうか本当に、八代はこの女達と対照的だったなあ。繊細が服来て歩いてる、みたいなさ。
最後のセックスシーンもよかったねえ、色っぽかったよ、物凄く生々しくてエロかった。

いや〜…書きたい事全部書けてない気もするけども、なんだかキリがないのでこの辺で。
本当に、いいマンガだったなあ、熱に押し流されていく繊細で生々しい心、ぐっと私の胸にめり込んできました。なかなかこんな風に表現してあった上で面白いマンガってお目にかかれない中、この一冊は本当に名作だったと思います。





拍手する
Catergory in [comics : は]秀良子 comments(3) -
Comment
YOKO says : at 2013/08/27 17:41
秀さんはずーーーーーっと気になってたんです。
この作品の評価がとても良かったので・・・。
でも女装って私もあまり好きじゃないんですよね。。
でもそんなにいい作品ならと思い切って買ったんです。
その後手元に秀さんの作品前作揃えてしまってましたw
いや〜なんなんでしょ、これはヨネダさんの作品を読んだ時のような、なんとも言えないけどドキドキして切なくてきゅんきゅんして・・・
読み終える頃に鳥肌立ってしまいました。。。
今でも女装ってあまり…というの変わらないんですが、何故かこの
八代はとっても可愛く見えちゃって。。。
もう百瀬に抱き寄せられてる八代は女の子なんだもん。。。
そして百瀬もぼーっとしていてなんだろうこのおとぼけキャラくんと思っていたら最後辺りはなんかすごく男らしく見えちゃったりw

何回も読みなおした作品です☆早く秀さんの新作読みたいです(^^)
ヨルコ says : at 2012/11/04 00:56
さきさんこんばんは!
初コメントありがとうございます〜。
共感して下さっているのですね、嬉しいです!

この作品、物凄い衝撃でした。
物凄く面白かったし…面白いっていうか、物凄く刺激的で引き摺られました。
全体的に発熱してるみたいなお話でしたね〜。秀良子さん、凄いです!

はい、ぜひこれからも遊びにいらっしゃってくださいね!
さき says : at 2012/11/02 13:21
初コメントです。が、毎回ヨルコさんの記事すごく共感しながら読んでます。

素晴らしい作品にであうと誰かにこの想いを伝えたい!!!ってなるんですが、周りにBLを熱く語れる人もいなく(笑)でもヨルコさんの感想は本当にわたしの心の内を代筆してくれてるようで(笑)そう!そう!!!そうなのよぉぉぉってなってます(笑)


宇田川町で待っててよ。本当にすごかったですよね。早くヨルコさんの感想読みたい〜って、思ってました。
まさに名作でしたね。

これからも感想楽しみに拝見させていただきます(^o^)
Leave a Reply








Submit
with Ajax Amazon