Archives by Month:
Archives by Category:
Entry: main  << >>

500年の営み * 山中ヒコ

はぁぁぁぁ〜……もう切なくて切なくて切なくて息も止まりそうなほどに切なかったです…。
でもよかった〜…。なんと愛の詰まった切なさなのだろうか、こんなに切ないのにこんなに幸せで、ページのどこを捲っても凄く傷をつけられそうで恐ろしいのに、でも実はそこかしこに愛情が散らばっていて、つけられた傷は何倍もの優しさで癒して貰えるというかで、本当に大事な絵本のようなお話でした、どこか寓話的な。
や〜…もう、好きですヒコさん…。
こんなものが描けるという事が本当に素晴らしいです、発想も。
こんなに長い長いラブストーリーなんて気が遠くなるよ、私はこの長い時間が恐ろしい、一瞬で消える事も恐ろしいけど、気の遠くなる長い時間というのも恐ろしい。一瞬でなくなる方が幸せのような気すらする。

あ〜…せつな死に一歩手前。
でもよかった。すっごく良かった。ヒコさん好き…。超才能だと思う。
今やっぱり私の中でマンガ家さんとしてはナンバー1ですヒコさん。

内容は、今回は近未来SFって感じでした。人間とアンドロイドの。
長い長い年月のラブストーリーでした。切なく美しい愛情のお話でした。

ところでこれまた表紙がいいですね〜!
この表紙は今年度相当上位に好きです。


以下ネタばれます。




…どう説明してよいのやら、ややこしいのですが…。
謎解きみたいに、あらすじを知らずに読んだ方が、徐々に分かってくる事実を心の中に入れながら読んだ方が絶対に胸に響くと思うので…あんまり詳しくお話書かない方がいいと思うんですよね〜。
なので大体のところで説明すればいいのですが、感想書いてるとついつい書きすぎちゃうのです。なので、今からマンガ読むという方は、私のネタバレ含んじゃう感想は読まない方がよいと思います…!ここで帰られて、そんでマンガ読んだらまた戻ってきてくれると嬉しいな〜。
という訳で、とにかく以下注意してください。

えーと、まあ一言で言うと、死んだ恋人の代わりのアンドロイドと恋をする話です。

…と言っても、死んだ恋人とのラブストーリーも中々にこう…既に泣かせる切なさがあって…。
主人公は寅雄、恋人は光というんですけども、二人の家は昔から仲が悪い。何かっちゃ光と比べられて育った寅雄はどうしても表面上は仲良くできなかったし反発して避けていたけど内心では、光の事が大好きだった。恋してた。
この、意地を張るしかなく、比べられて自分の居場所もなく、それでも幼馴染みに恋してた寅雄の不器用さが、何とも痛々しい。そんで、お金がない家で新聞配達とかして家計を支えてた光の健気さも、切なくてどうしようもない。光の目って、全て悟って、全て受け入れているみたいな優しい穏やかな目で、状況を恨んでいない真っ直ぐな穏やかさが、なんつうかなあ…報われて欲しいというか、幸せになって欲しいと祈るような気持ちにさせられてしまうんですけども…。
そんな光が、自分にきつく当たっていた寅雄の本意を、たぶん分かっていて…寅雄のままならない窮屈さや劣等感もきっと分かっていて…分かっていたから、寅雄を好きでいてくれたんじゃないかなって私は思うんですよね。
光の優しさ…本当に痛かったです、心が。
寅雄が、あんなに意地っ張りだったのに、自分を受け入れてくれた光に、どれだけ心で感謝して、どれだけ光を思っていただろうと思うとね…二人の幸せがあまりに呆気なく、短く終わってしまったのが、悲しくて悲しくて悲しくて、250年後目覚めた寅雄が、なくなってしまった光の事を、想って、焦がれて、追い求めて、未来の現実も受け入れられないし、代わりだと言われたアンドロイドのヒカルを受け入れられないのも、まるで読んでいる私の心と一緒で、人間の光が恋しかったし、いつまでも、どうして死んでしまったんだ、と本物の光への思いを断ち切れませんでした。
優しく誠実だった光、何も他人を庇って、死ななくても…。
死に様もあまりに光らしく、もうしょっぱなから悲しくて、私、この一冊耐え切れるのだろうかと、とても恐ろしい気持ちで読み始めたんですよね。

でも始まるともう夢中なんで、途中で止める事なんか絶対にできないんですけども。

光が死んで、後追い自殺をした寅雄が目覚めたのは250年後の世界。
核戦争を何度も繰り返した未来の世界にはアンドロイドだらけ。冷凍保存されていた光は、肉親もとっくに死んでたった一人、側にいるのは光の代わりだという、光に似せて作られたアンドロイド、ヒカルBだけ。
ヒカルBは光にそっくりに作られた筈なのに、光に全然似ていない。光より能天気に笑うし、光より不器用で、リンゴも綺麗に切れない。でも大方は光なので、寅雄に言わせれば、本物の光より"三割減のアンドロイド"。
三割減のヒカルBは、本物の光とは違うけど、でも暖かくて優しい。自分は寅の為に作られたんだからと言って、寅に自分の全てを捧げてくる。
寅は光がいない現実にも、違う光が自分を光だと言って、自分と光の思い出を目の前に出してくるのにも耐えられない。苦しい。苦しいから、自分のやりきれない感情を、目の前のアンドロイドにぶつける。おまえは偽物なんだから、と。その度にヒカルは謝る。似てなくてごめんね、と謝る…。

という、書いてるだけで泣いてしまいそうな、恐ろしく切ない話なのです。
大体ね、アンドロイドなんて出てくるだけで切ないんだから…。
人間と似ているのに人間ではない。一見同じに見えるのに、同じ種ではないということは、同じ生を生きられないという事。絶対にどちらかが取り残され、どちらかは先に逝く。
アンドロイドっていうのは、そういうのが付き物ですよね。今んとこ想像の世界の産物ですけどもね、想像でよかったと思います。本当にこんなのがいたら、たまったもんじゃないです。

んで、そんな偽物のヒカルBと一緒に暮らしていく寅雄。一緒にいるうちに、少しずつヒカルに癒されていくんですね。光がいない事に慣れて、自分の隣にヒカルがいることに慣れて行く。
たぶんあと少し、あと少しで寅雄の愛情はきっと、目の前のアンドロイドへまっすぐに向かったと思います。
けども、ずっと続くと思っているから、自分の気持ちに気付かない。
寅雄は結局、そのヒカルBも失うんですね…。

目の前に本物の光と寸分違わぬヒカルAが立っていても、寅雄の心は動かなかった。
その時には既に、寅雄に必要なのは、光の偽物ではなくて、不器用で暖かく明るいアンドロイドのヒカルBだった。

…その時にはっていうけど、結局寅雄にとって、誰も本物の光の代わりにはならなかった。誰も、何も、何かの代わりなんて事はできない。終わらせて…いや引き摺りながらでも、新しく始めるしかないって事なんですよね。
光にどんだけ似ていても、喋り方や顔や性格が一緒でも、寅雄にとっての光は、死んでしまったあの光だけ。
生きているということは、たった一つしかないということ。失ったらもう、それで終わり。同じものは二度と存在しない。その人を好きだと思うその心は、その人でしか満たされない。
どれだけアンドロイドができて、どれだけ技術が進歩しても、愛する心っていうのに、何も誰も手出しなんかできないんだと思う。
寅雄は、自分の心で、優しい出来損ないの、あのアンドロイドに二度目の恋をしたんです。
恋をしたのに、結局また失ってしまった。
でもここで寅雄は、今度は好きな人をちゃんと選ぶんですね。前は自殺しようとしてしまった。けど今度は、ヒカルを追いかけて、探して捕まえる。
寅雄がぐっと成長したというか、人として強くなったんだって思って凄く嬉しかったのに…
捕まえたと思ったら今度はまた………

もうね、これでもかこれでもかと、寅雄の幸せに障害がね…現れるんですよね…。
今にも何か取り返しのつかない不幸が襲い掛かりそうで、気が抜けないったらない。恐ろしくてしょうがないです、不安でしょうがない。本当に、祈るような気持ちで1ページ1ページ捲っちゃったよね…。

そしてまた250年、何と長いのか…。
何度も言うけど、長い時間を越えるのは、死ぬほど恐ろしいことじゃないだろうか。
自分の寿命分だけ生きて、死ぬのが一番幸せな気がする、人間は。

寅雄が足の壊れたヒカルを背負って歩く時に言うセリフが凄く心に刺さりました。
人間は、ロボットだろうが使用済みの切手だろうが犬だろうが、好きな奴の為に動くって。
しなくていいことでも、無駄な事でも、自分が傷ついてしまうことでも、好きな人のために、好きなもののために、動いてしまうものなんだって、寅雄が言うんですよ。
それって本当に大きな矛盾ですね。
でも、250年後のロボットが言ってたみたいに、なんと美しい矛盾だろうね。
本当に涙が出そうなくらい、綺麗ですね。
でも、私は、理想ではないと思いますよ。
人間は、汚い部分をたくさん持っているけども、美しい部分も持っていて、そういう部分を持っているからこそ、今こうして生きていられるんじゃないですかね。
信じる事も必要。
寅雄のように、求めて失って、得てまた失って…を繰り返した人間に、ふと分かる愛情があるんじゃないだろうか。ふと見える真実ってあるんじゃないだろうか。

ヒコさんの話を読むと、思うなあ。
信じられないくらい美しい愛情とか、純粋さを、肯定しながら生きたいなあって、何となく。
否定することの方が多い人生だろうと思うけど…誰だって。でも、物語の中に、こうして描かれる人間の綺麗な部分を、いつまでも、綺麗だなと涙を流せる今でありたい…みたいなことを…漠然と私は思うよ。

ロボットの話なんで、ロボットの存在もいっぱい物悲しかった。愛しくもあった。
ヒカルBがたくさん練習したごろごろの石みたいなリンゴの欠片。…泣いたなあ…。
一番初めに寅が目覚めた部屋があったでしょ。あの部屋に、たくさんプレゼントがあるんですよ。ケーキも用意してあって…あれって起動する前にヒカルBが用意したんだろうか。起動する前にそういう事ってできるもんなのかな。よくわかんないけど、あの部屋見ても、寅雄を待ち望んだヒカルの愛情を感じて凄くなんか…胸がきゅっとなるんですよね。
出てくるロボットが全部、人間を凄く愛しているのも切なかった。人間を救出したらすぐ壊れてしまったロボットもいたでしょ。象徴的ですよね。結局彼ら、機械なんだよね。人間の形をしているけど、自分たち個々の望みはない。これをやったら自分たちはいなくなってしまうとか、これ以上したら壊れてしまうとか…そういう概念がなくて、人間を助けるのが一番の目的で、果たしたらがしゃんって屑になってしまう。
結局人間がいないと、ロボットなんて、一体何のために存在しているのか分からないんだな…。
必要とされてはじめてそこに在る意味があるんだな…。
人間を嫌いなロボットがいなくて、切なかったけど、凄くほんわりした。なんか嬉しかった、なんでだろうな。嬉しかったんですよね。

四角いロボットが、自分たちが人型を取らなくなった理由は、醜いからだって言いますよね。
それも私、ガツーンときたんですよね。必然によって成された形は美しいけども、その必然のない人型ロボットの身体には違和感がある、醜いって。
ガツンと来ないですか、私は来た。ロボットがヒト型を取る必要は結局ないって…人間は実は美しいんだって、まるでその"生"ってものを羨んでいるようなロボットの口調に、何かこう、真実を見たような、一瞬。そういう気にさせられました、印象的でした。

あと面白いのは、こんなに技術が進歩して、人間そっくりのロボットまで作れるのに、人間のハゲは治せないっていう。人間自体に手出しをすることは絶対にできないって事なんですね。…手出しができない、だからこそ人間っていう存在が、こんなにも孤高なのかもしれない、この物語の中で。
たった一つしかない、いずれ消え逝くものだから美しく、消え逝くものだからこそ愛しくて、どんなに愚かな戦争を繰り返していて、破滅へ近付いていたとしても、この寅のように、愛しいものの為に矛盾を抱える。理にかなわないことができる。それは人間にしかできないことですね。矛盾を抱えているということが、何にも代え難く美しいことなのかもしれないですね。

寅雄だってそう。
近未来で、アンドロイドやロボットがたくさん出て来て、凄い技術がたくさんあって、寅雄は500年もの長い間生きているのに、結局、500年も生き延びたその貴重な命を、たった半年間を過ごしたアンドロイドに会うために使ってしまう。好きだから、会いたいから、たったそれだけの為に使ってしまう。
"たったそれだけ"。…そこに人にとってどれほどの重さがあるのかって事だと思う。
さっきも書いたけど、誰も何も、人の心に手出しなんかできない。
そう思うと、心に潜む、形にならない、気持ちというものの、強さと尊さを見るよね。

最後、尾瀬があってよかったな…。
この世界に、尾瀬が残ってることなんて凄い奇跡みたいだけど、奇跡が起こってよかった。
尾瀬が残っていたことが、ヒカルと寅のこれからを示唆しているみたいで、嬉しかった。報われた気がした。こんな切ない話には、幸せな奇跡が用意されているべきです。

そして、一人で250年過ごしたヒカルBの孤独を思うと、胸が張り裂けそう。
彼らはロボットなので、"寂しい"が分からないかもしれない。寂しい苦しい孤独だ…と人間のように孤独ゆえに死ぬような思いをたぶんしなかっただろうことが、ヒカルにとってはきっと救いだったよね。
けど、寅の声のソラミミが聞きたいという気持ちは、"さみしさ"だと思う。寅の声を聞きたいと思い続けて、気の遠くなるような年月を、尾瀬で過ごしたヒカルBの、あの最後のコマの、泣けず笑えない何とも言えない顔には、やっぱり私は泣いてしまいます。

最後の最後の1ページ、嬉しかったな。
本当に嬉しかったなー…。
ソラミミが聞きたいというあの何とも言えないヒカルの顔で終わってたら、苦しかった、きっと。

あと初回特典のミニペーパーが嬉しかった。
四角い奴とヒカルが能天気でホッとした…。

はー…なんかこう、抽象的な事ばかり書いてしまったけど、本当に感動しました。今更ながらあれですけど、もうずーっと相当かなり泣き続けてしまいました…。
いいお話だった。
ARUKUさんもそうだけど、こういう寓話的な恐ろしく切ないお話を描く人が、BL界にいてくれて本当に幸せです。





-------------------------------------------------------






27、28日
王子と小鳥 * 山中ヒコ  人間の一番無防備な部分 * 舟斎文子  DOGLA MAGLA * 寿たらこ  夢の国 in マイダーリン * 阿部あかね  僕の先輩 部屋とYシャツとおめーと俺 * 羽生山へび子  Stranger * 琥狗ハヤテ  ケダモノ外科医 * 新也美樹

以上の記事と携帯とサイドのボタンから拍手を頂きました。
どうもありがとうございました!

新刊が届いているのでちょっとずつ読んでいるのですがとりあえず、この500年の営みを読んで心に大嵐が吹き、しんどいので一呼吸置いてから憂鬱な朝を読んだらこれがまたハリケーンやってきました。
もう二冊続けて大泣きして、放心状態でそのまま寝てしまったよね…。






拍手する
Catergory in [comics : や]山中ヒコ comments(2) -
Comment
ヨルコ says : at 2012/08/21 17:59
こんにちは、コメントありがとうございました。

寅雄が先に死んでしまう…。
そうですね、きっとこの先そうなりますよね…。でも、ここまで生きた生身の身体なので、何とかこの先も長く生きて、ヒカルと同じだけの時間を生きられたらいいですね。
考えれば考えるほど切ないですが、ハッピーエンドを信じたいですよね。
名無し says : at 2012/08/18 08:27
500年の営みを読んで、この記事を読んだらまた涙が出ました。本当に胸が張り裂けそうなくらいたくさんの感情が湧いてきますよね。きっと寅雄がさきに亡くなってしまうけど、ヒカルにも故障とかなってふたりで寿命を迎えられたらいいのに
Leave a Reply








Submit
with Ajax Amazon