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八月の略奪者 * いつき朔夜

新刊がたくさん出てるので新刊の感想書いた方がいいんだろうけども、ちょっとどうしてもその前にこの一冊の感想を書きたいです。
これ、何年も前に読んだ事があったんですよね。BL小説自分的休止期間が明けたばかりで、何を読んだらいいか分からなかった私に友達が、私が好きそう、という理由で貸してくれた本の中に入っていたのです。
で、まあタイトルとか忘れてたので、読んだの忘れてて買っちゃったんですけどもね。

んで再読したのですが…いや〜〜〜面白かった!!!
全力!!全力で力いっぱい、面白かった!!!
前読んだ時よりも何倍も、何倍も何倍も面白いと思いました。いや前も面白いって思ったんだよ、でも今回はそれよりももっともっと凄く凄く凄くよかったと思った。
泣くような話じゃないんですけども、もう例によって私、号泣。なんていうんだろ、このひたむきさっていうか、赤裸々になっていく思い、揺れる気持ち、募る気持ち、その気持ちに入れば入るほど、主人公達の一生懸命さが響いてきて響いてきて、私、泣いちゃうんですよ。あんまりにも一生懸命で、その必死さに撃たれて、一途さに撃たれて、浅はかさや、情けなさや、後悔や、迷いや、好きだと思う心や、臆病な心、もう全てに、涙が出ちゃうんですよ。なのでもうね、一話目の後半くらいからずっと泣いていたという…。

高校生と、学芸員の話で、年上受なんだけど、ほんとこの高校生がねえ、未熟者で、短慮でね、浅はかな奴なんですよ。でもね、ありえない浅はかさじゃないんですよね。この浅はかさ、物凄くありふれていると思うんですよ。で、その反面、真面目でひたむきで、心が柔軟だったりするんですね。だめなところもあるけど、愛すべき部分もたくさんもっている。
なんかそういう…ありえる感じ。身に覚えの或る、特別ではない感じが、なんだかもう胸を打ってくるんです。
んで、年上ぶった学芸員が…大人っつってもまだ若造だと思うんだけども、高校生から見たらまあ大人なわけで、その男も大人ぶって分かったふりして逃げ腰になったりね、そういう過程にもね、苛立ちを覚えつつ、なんかもう…その思いが手に取るように分かるもんで、切ないんですよ。馬鹿だなこの子…と思うんだけども、思いながらも、何だか胸が痛い。

気持ちの真摯さっていうのが、とにかくダイレクトにガツっと来るんですよね。
私はとにかくそういう話が凄く好きなんですよ。この子たちの思いが、胸に来た。食い込んできた!
んで舞台が博物館なんですけどね、自然保護とか、生態系を守ろうとするところが舞台になっているんですね。
常に言っているんですが、私はもうとにかく恋愛要素以外のものを読むのが常に面倒くさいんですね、ほんと恋愛部分だけ読みたいんですよ。
ところが、このいつき朔夜さんは、こないだの『ウミノツキ』もそうだったんだけど、恋愛以外の要素が、面倒くさくないんですよね。やたらと専門家しか分からないようなことが書いてないからだろうか、凄く嫌味がないんですよ、すんなり読めるし、邪魔だと感じないし、それに自然保護云々って話は全く興味がないというわけでもないんで、私はこの本、凄く凄く楽しかった。そして苦しかった。自然の事を考えると、常に苦しい。

けど、本当にいい小説だったと思います。
私はとにかく大好きでした。すっごく良かった!

以下ネタばれます。





高校生の浩紀は、学校の課外授業みたいなので博物館に行く事になって、そこで博物館で働く香月と出会う。浩紀は実は、模型を作ったりするのが得意なんだけど、中学校の時にそれをオタクだとひどくからかわれてから、自分の趣味を恥ずかしいもの、と捉えるようになっていて、人前では隠している。だけどその博物館で、化石のレプリカを作る体験学習があって、得意な浩紀は本物そっくりなアンモナイトのレプリカを作り、女子から褒められる。そしたらそれを男子達にオタクだとまたからかわれて、カッとなった浩紀は自分で一生懸命作ったレプリカを自ら壊してしまうんだけど、なんとそれはレプリカじゃなくて、本物のアンモナイトの方だった。内心ではまずいことをしてしまったと思っている浩紀だけど、みんなの手前もあって、冷めたような態度を取ったら、指導してくれていた、大人しそうな学芸員の香月にひどく叱られる。
結局、そのアンモナイトの弁償をするという意味で、夏休みの間、博物館でボランティアをすることになり、出会いは最悪だった香月と浩紀は、徐々に親しくなっていく。
香月は大人しそうな頑固そうな、だけど見た目はとても綺麗な男で浩紀より6歳も年上。浩紀は香月と一緒にいる毎日が凄く楽しくなって、初めは嫌々だったボランティアを楽しいと思い始める。
だけどある日、浩紀は香月が香月の親友の男とキスをしているところに遭遇してしまい…。

…というのが最初の方の話なんですけども…あらすじだけでは、なんともこの…浩紀の気持ちの細やかな揺れに感じる、身につまされる感じ、リアルな感じを、当然だけども表現できない。
でも、読んだら分かってもらえるような気がするんだよなあ…。
二話入ってて一話目は浩紀視点で話が進むんですね。
好きな事があって、やりたいことがあって、集中してその事ができて、必死になれて、真面目な部分もある。だけど、その"好きな事"が周りに理解されにくいことだったために、浩紀は自分を中学生の時に閉ざしてしまうんですね。必死になれば余計に周りにからかわれる。だから何事にも必死にならないふりをした。中学生なりに、処世術みたいのを身につけてしまって、本当の自分を、「どうでもいい」という言葉で覆って、無気力なふりをしているという高校生なんですよ。
なんかね、なんかこの感じ。
すっごくなんだか…分かる気がしないですか?何か好きな事がありながらも、周りの人と外れる事も怖い…という思いをした事がある人は、たくさんいるんじゃないかと思う。私なんか勿論そうです。
オタクといわれるのが怖くて、何年も何年も、一番仲のいい友達に自分の趣味を言えなかった。十代の時は常に悶々としていました、社交性と、自分のマイナーな趣味との間でもがいていて。
浩紀の考え方とか、心の動きとかね、凄く些細な事一つ一つが、物凄く作り物な気がしなかった。ちゃんと生きて動いている感じがしました。嘘ごとじゃなく、浩紀の心がここにある気がして…私は見る間に入り込んじゃいました、ほんっとに真摯に描かれてあると思ったの、からかわれて腹が立ってアンモナイト壊しちゃったりね、自分ではそんな事するつもりなかったし、悪い事だと思っているし、後悔しているのに、口ではなんでもないみたいなふりをしたりね。
根が真面目で優しくても、からかわれること、馬鹿にされる事、周りから浮いてしまうこと、が何より怖い世代ですよね、十代。特に高校生。
浩紀はとても生々しかったと思う。馬鹿だなと思う事はたくさんあったんですよ、ほんとダメだなと思う事も。浅はかな奴だと情けない思いになる事もたくさんあったし、配慮しろやもうちょっと…と思うところもあった。
だけど、だからこそ、17の浩紀だったと思うんですよね。
だからこそなんだよね、17歳、こんなもんだよね。
そんで、反面の、優しさとか誠実さとか、明るさとか、前向きさ。そういうものも、これでもかと描かれていたんですよ。
浩紀の小さな気持ちの動き、迷いとか、後悔とか、辛さとか、必死さとかね。気持ちを読んでるうちに、とにかく凄く泣けてきたんですよね、"思い"って、突き刺さるよね、それがどんな種類の思いであろうとも。

浩紀はカッとなりやすい男子なんだけども、心に凄く柔軟性があって、考えて自分がいけないと思ったら、すぐに謝ろうと思うことのできる、真っ直ぐな捻くれたところのない子なんですよね。
だから、香月を傷つけたと思ったらすぐに謝ろうとするし、冷静になればちゃんと自分が見える。香月という人の本質にもちゃんと気付けた。
香月を好きだと自覚してからも、一旦は嫉妬して香月を傷つけるようなことを言ってしまうんだけど、散々一人で悶々と考えてからは、いや俺はまだ嫌われたとは言われてないんだから、ここで彼を思い出にするのはまだ早いっつって、香月に向かっていくんですよね、なんたる前向きさ。素晴らしいよね、本当にこういうとこは素晴らしかった。この子は全てがそういう感じだったんです。

だから結果的に香月は凄く救われたんですけどもね。
香月っていうのが研究者にありがちなのか、生真面目で頑なで融通が利かないとこがあるんだけど、この人も本当に優しい人だと思う。ハンバーガーのくだり、浩紀じゃなくても胸をうたれたよ。恩着せがましくいう事だってできるのに、嘘ついて、浩紀にハンバーガー渡してさ。
アンモナイトが壊れたことは、私も凄くショックだった。香月や浩紀ほどにその価値が分かっているとは自分でも思わないけども、単純に、何十億もの時を存在し続けたものに対する敬意があるよ。大事にしたい、その時間を。その存在を。
だから香月が浩紀を叱ったのは、理屈じゃなく、凄く共感できた。
その後も香月のいう事は凄く静かだけど真っ当で、人柄も出てたけど、なんか切ないなあと思って…。
見るからに、自分の気持ちを押さえ込むのが普通になってしまってる感じがしたんですよね、見るからって見てないけど、頭の中にそういう香月の姿が容易に想像できる。
損している感じがしてさ、浩紀が暴言吐くたびになんか、傷つけているみたいで凄く可哀想でした、ちょっと痛々しい感じするんだよなあ香月。
きっと浩紀の事を気に入っているんだろうと、まんざらでもないんだろうと、何となく香月の態度で分かるから、告白してきた浩紀を突っぱねるのも、きっと凄く辛いだろうと思うと…どう見たってそんな遊んでる感じじゃないんだし、ゲイで、経験だって少なそうでしょ。それで、年下のカッコいい子に好きだって言われて、自分はなんとも思ってませんってふりで拒絶する。
そんな事を、この不器用そうな人がしたのかと…想像するだけでなんか切なくて、また凄い泣けたんですよね、なんかもうとにかくいちいち気持ちが突き刺さる。いちいち痛いです。

漸く浩紀と香月が付き合う事になった三年後が二話目なんですけど、これがまたね、凄い泣けたんですよねえ…。
浩紀が三年後、物凄くいい男になってるんで超惚れる。包容力もあるし、前向きさは変わってないし、余裕ができて、だけどやっぱり優しくて賢くてさ。まだまだ21とかなのに、大人になりすぎだよ浩紀〜。
だけど、そんな浩紀に対してダメなのは香月。
元々、いつか終わるとはなから期限付きだと思っての付き合いだったんですよね。自分はゲイだけど、浩紀はそうではない。自分なんかと付き合っていたら、浩紀の将来のために良くない。
だから自分は浩紀と別れる!今がもうタイムリミット!って勝手に思い込んで一人で突っ走るわけです、浩紀を自分から離そうと思って。
もうね、完全に盲目。何もかもおかしいんだよね、この時の香月にどっから突っ込んでいいか分からないくらい、いろんなこと大間違いだと思うんですよ、あんた違うよそうじゃないよ、浩紀の為だからと言いながら浩紀のためにならない事ばっかしてんですよ、自分の側から離したいから就職先ダメになったらいいとかさ、浩紀が自分を諦めようとしないから親友と既成事実作っちゃえばいいとかさ、いやいやいや、全然浩紀のためになってないからっ。そもそもそれらをやってる根本の、大元の理由がおかしいから!
いちいちはあ?それおかしくない?それ違うんじゃない?のオンパレードでね、本当にこの時期の香月には呆れました。
呆れたんだけどもね、だけど、香月の心の内、言葉に出さない自分でも気付いてない本心は、手に取るように分かるんですよ。もう好きで好きで好きでしょうがないの、浩紀のことを。いつか終わりが来ることが怖くてしょうがない。だから、今別れたいって、今さようならしたいって考えているだけなんです、後に香月も気付くけど、気付いてないのは香月だけで、香月の友達も、浩紀も、読者もみんな分かってると思う。
分かっているから、この、一人で悶々ぐるぐる行き先の見えない迷路を突っ走っている香月がね、不憫なんです。可哀想なんです。
どんなに矛盾したことでも、香月は必死だった。必死になる必要のない事に必死になってるんですね。

森の中で香月が漸く、自分の本心に気付くところがあるんだけど…木の幹に額を押し付けて、香月が嗚咽するシーンです。ここがですね、号泣でした…。
理屈じゃない、理性なんか役にも立たない、自分は手足を振り乱して赤ん坊のように、浩紀を求めている、と気付くんですよ。手放したくなんかないんだって、自分でしっかり、気づくんですよ。
ここ本当に好きなシーン。凄く泣いた。いいシーンだった。

香月の考え方は間違っていたと思うし、浩紀を自分から引き離そう、そうすれば浩紀は幸せになれるから、だなんて傲慢だと思うしね、本当に独りよがりだったと思うんですよ。
でもきっと、香月にとってこの道はきっと、通らなければならなかった道だったんじゃないかとも思うんですよね。香月にとっては辛い道だったけど、この道を通らなければ分からなかったことが、たくさんあったんじゃないかって。
女子に嫉妬している自分、浩紀を女子に取られるんじゃないかという不安。そういう分かりやすい直接的な不安があったのに、そんな自分にも長いこときっと目を伏せていたんですよねこの人。
自分の本心は、ちゃんと自分で気付いて認めてやらないと、いつか爆発してしまうよ。頑なで真面目すぎて、常に冷静であろうと理性的であろうとしすぎる香月だからこそ、単純な自分の思いに気付くのに、物凄く時間も掛かったし、たくさん傷つかないといけなかったんだと思う。

それで、物語の背景に自然保護があるんだけども、さっきも書いたように、これが嫌味のない程度、鬱陶しくない程度に、でもちゃんと織り込まれていると思うんですよね。
蝉の事もアライグマの事も、里山を壊して自然公園を作ることも、全て全て苦しい話でした。とても苦しい話でした。
浩紀がそういう事に敏感な子で、7年8年も土の中にいて、やっと表に出ようと思ったら、上をコンクリートで塞がれている蝉の事を想像したら、胸がたまんなくなる、苦しいって言うんですよね。
私だって苦しいです。浩紀と同じように、心臓をぐっと押さえ込んで、苦しい波が過ぎるのを待つようにしています。
けど、そうして生きていくうちに、心臓をぐっと押さえなくてもやり過ごせるようになってきた。今は、苦しいことに目を塞ごうとしている自分がいます。
浩紀がもしも、香月に出会ってなかったら、もしかして私のように、苦しい事から目をそらそうとする大人になっていたのかもしれないし、…いや、浩紀だったらそれでもきっといつか、何かの形で、自然と生きるような道を選んだような気がするけども…。だってジオラマに詰まった浩紀の愛情を考えたらね。
何だかそういう事全て含めても、私にとって浩紀は夢のように輝いていて、凄く好きなキャラでした。

あ、それから香月の友達もいい男だったよね、頭良くて優しくて。

うーんほんと、魅力がいっぱい詰まってるのに、暑苦しくなくて、読みやすくて、だけど胸は何度も何度もぎゅぎゅぎゅ〜〜〜っとなるような、爽やかな痛みがたくさんあって…本当にいいラブストーリーだったと思います。
大好きでした。





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6日
マッチ売り * 草間さかえ  2010年下半期ベスト  グッドモーニング * 夏水りつ  うちの子がご迷惑かけます。 * 山田まりお

以上の記事と携帯から拍手を頂きました。
どうもありがとうございました!

最近読書メーターを使い始めたのですが…登録したのは二年くらい前だったんだけど、このブログがあるから並行してはやりにくかったんですよね、なのでずーっと放置してたんだけど、最近またやり始めました。
欲しい本とか買ったけど読んでない本とか管理できるのいいなと思って、そっちの機能をメインにやろうかな〜って思ってます。
あんまり本読んでないので、読んだ本の管理はブログがあれば事足りてしまうっていうのがなんとも。




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Catergory in [novels]いつき朔夜 comments(0) trackbacks(0)
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