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夜をわたる月の船 * 木原音瀬

読んだ〜。面白かったけど、しんどかった〜…。
なんかもう、えらい体力使って読んだ気が…。ほとんど徹夜してしまった。朝方やっと寝たんだけど、この小説に影響されて、お得意のえらい切ない壮大な夢を見て、なんかもう昼まで寝てたんですけど、倍しんどい…。私いつも壮大な映画みたいなストーリー仕立ての夢を見るんですよね…まあ夢の事はどうでもいいんですけど。
いやもう〜なんて感想書けばいいんだろうか?凄い色んなことを思いながら夢中で読んだしのめり込んで読んだんだけど、何を書けばいいのか分からない。感想を書けばいいんだろうけども、とにかく読み終わって思ったのは一言、"しんどかったー…寝る。"だったので…もうちょっと何回か読んでから感想書いたほうがいいのかなあとも思いつつ、もうこれあたし何回も読むのしんどいよ。

小さい字の二段組でびっしり文字が詰まっていて凄く嬉しかったんだけど、その分量に見合った、物凄く苦しい話でした。
暴力があるとか、誰かが一方的に痛めつけられるという訳じゃないんですけど、…なんていうんだろうこのしんどさ。
あのー、終わりが見えないというか。行き着くゴールが見えてこないところがとにかくしんどかった。一体どうなればハッピーエンドで、真実はどこにあるのか、というのが、中々その形が見えてはこなくて…何となくね、柴岡さんの抱えているものは、まあ見えるんですよね。だけど、河瀬と一緒に翻弄されるんだよね、柴岡さんの言動に。
でも読んでいる方にしたら、とにかく河瀬に柴岡さんを幸せにして欲しいわけ。もうそここそがたぶん、自分の希望としてはゴールなんだけど、とてもじゃないけど、それが読んでも読んでもその欠片が見えてこない。精神的にも肉体的にも疲弊していく柴岡に釣られるように、こっちも凄く疲れていく。
放り出したい河瀬の気持ちがあまりにリアルで、だけど放り出して欲しくはない、それに最初から最後まで柴岡さんは憐れで、あまりに憐れで、もうどうしたらいいか分からなくて、本当に途方にくれるような気持ちで読んでしまった。とてもじゃないが他所事にして楽しむというような心境にはなれず、どっぷりはまり込んでしまったが為に、本当に疲れました。

でも間違いなく、いい小説だと思う。
人の心の真実を暴き立てるというような、色んな側面があると思う。一言ではなかなか言い表せないような、人の本能みたいな事とか、エゴとか、愛する事とかさ。一人の人間に対する妄執と、その人を愛しくて守りたい生きていて欲しいと思うことの気持ち、その間にどのくらいの差があるのか…そんなに違うことなのかなって思ったりとか…。


以下ネタばれます。




内容はあらすじにも書いてある通りで、河瀬という若いサラリーマンが、ある日、人が良いと思っていた優しい上司に、部署換えを盾にセックスを強要される。柴岡という上司は、とにかく頭が切れて人の事をよく見ていて仕事もできる。河瀬はしょっちゅう彼に食事に誘われていて、彼に気に入られている自覚がある。だから、今の営業ではなく、会社の中でも花形と言われている企画開発に行きたくて、自分を気に入ってくれている柴岡に、その事を仄めかす。すると、柴岡は案外簡単にその希望を聞いてくれると言うんだけど、自分とセックスする事を条件として出してくる。断ると、今度は自分が営業を出るまで、絶対に河瀬を企画開発には行かせないようにする、と今度は脅迫される。
たった一回寝る事と、これから気の遠くなるような長い時間、営業にいなければならないという未来を量りに掛けて、河瀬は柴岡と寝ることを決める。
だけど、ゲイでもなく、男と寝るなんて気持ち悪い。取引めいたことに乗ってしまった事に対しても、河瀬の倫理観が受け付けない。自分に対する嫌悪感、柴岡に対する嫌悪感。実際、体を触られて、柴岡が自分の上に乗って、自分は突っ込んだだけというセックスでも、それは河瀬の心をひどく傷つける。精神的にもひどく追い詰められる河瀬に対して、行きたくない会社にやっと出てきた河瀬の目に映る柴岡は、普段と何も変わりがない。河瀬は次第に柴岡を憎むようになり、自分が"体を売ってしまった"という罪悪感からも逃れられない。
だけどどれも、自分が営業を出れば終わる話だと思っていたのに、結局河瀬は企画に行けず、柴岡は北海道に栄転。
自分を騙して、体だけを貪って、自分はさっさと逃げた。河瀬は柴岡を、殺したいと思うほどに憎むようになって、ある夜彼を付狙って、殴り飛ばす。だけど運が悪い事に、殴られて道路に転がった柴岡が、車に轢かれてしまう。
河瀬はそれを見て、まずは逃げてしまう。自分が彼を殴ったから彼は車に轢かれた。自分に殺意に近い憎悪があったから余計に、自分が殺したと思い込むんだけど、実際には柴岡は一命を取り留める。
柴岡に怪我をさせた罪悪感、だけどそれ以前に強く持っていた憎しみ、河瀬の心はボロボロになって、柴岡とは会わないまま彼は転勤になる。
そして数ヵ月後、河瀬の人事異動が発表される。柴岡が約束したとおり、河瀬は企画に行ける事になる。
柴岡は、ちゃんと河瀬を企画に押してくれていた。河瀬が企画に行けないのは実績がないからで、自分が企画にいけるような実力を何も身につけていなかったこと、自分が企画開発にいけない事は、誰のせいでもなく、自分のせいだと言う事を、企画に行って仕事についていけない自分を思い知ることで、河瀬は知って行く。

…という話で、でもこれ序章。ここからがもう、強烈に苦しく長い。
柴岡さんという男が凄く不思議な男で、外面は完璧なんですよね、人当たりがいいけど、見る目は鋭くて、見た目も42とかにしては凄く若くて、身だしなみもいい。女子社員にもよくもてていて、スマートなんですよ。そんな男が、河瀬と寝たいという。
あたしは初めから、好きなんだと思ったんです。好きだから、という理由じゃなければ、なんでそんな部下の一人と、そんな条件を出してまで抱き合いたいと思うだろうか。なんで彼と繋がりたいと思うだろう。
最初に柴岡と河瀬が食事に行くことになった夜に、暗闇を怖がって歩けない柴岡を、河瀬が手を引いて歩いてやるというシーンがあるんだけど…たぶんその時に柴岡は河瀬に惚れたんじゃないだろうか。
好きなんだと思うから、とにかく一方的に傷つけられているという顔しかしない河瀬に、あんたちょっと被害者面しすぎなんじゃないの、と凄い思ってたんだけど…まああの状況で、自分を一方的な被害者だと思わない奴はいないだろうな…分かるんだけど、柴岡さんがなんか…凄く悲しいんですよ。

企画に異動して、自分の浅はかさに気付いた河瀬はとにかくそれから頑張って、30歳になる頃には主任という位置にいて、幾つもの商品を担当している。そのマーケティングの一貫で北海道に行くことになって、そこでもう過去の事だと自分に言い聞かせていた男に再会する。
もう忘れたと言い聞かせていたことだったのに、河瀬にとってあの柴岡との事は、もう完璧に深い心の傷になっていて、トラウマなんですよね、一回寝た相手、とか脅迫された相手、とかもうそういう位置にはいないんですよ柴岡は。自分を責め苛んで苦しめたあの数ヶ月の事と、柴岡は直結している。柴岡の顔を見るだけで怖い。体を売るような真似をした事、泣きながら男に体を貪られたこと、彼を死ぬような目に合わせてしまったこと、だけど結局自分の要求が理不尽で浅はかだったこと、そういう現実まで一緒になって、誰かを殺したいと思うほど憎んだ事自体が、既にこの健全で、とても繊細で真面目な男、河瀬の心を深く深く痛めつけている。
だから、河瀬は柴岡に普通に接することができない。向こうは全て忘れたように普通に接してくるのに。
一緒に仕事をすることになって、河瀬と柴岡が二人きりになる時間も増える。嫌々ながらも一緒にいると、河瀬は柴岡が如何に壊れた男であるのかというのを知る。まず自宅はゴミ溜めのような惨状だし、車を運転させればまるで死にたい人みたいなスピードの出し方をする。
そしてある二人きりの断崖での夜、柴岡は、河瀬を怒らせて、断崖から自分を落とさせようとする。
河瀬は柴岡が死にたがっていると言う事に気付いてしまう。

この辺りからもう本当に、とにかく苦しいんです、重い。
柴岡という男が見えるようで見えないんですね。過去に何があったか、どういう人生だったか、薄っすらとは見える。だけど文章の中にいる柴岡は、まるで自分を出さない。自分の感情らしきものを全く表に出さないんですよ。口を開けば皮肉と嘘、いつも自分を演じている。柴岡自身が自分の事を、"擬態している"、と言うんだけどまさにそう。だけど、感情を出さず、死のうとばかりして、河瀬にだけ時折自分を見せる柴岡が、憐れなんです。痛々しいんです。

柴岡が本気で死ぬつもりだという事を知って、自殺を食い止めた夜、柴岡は心因的な理由で失明してしまうんですね。目が見えない、ふとした瞬間に死のうとする。一人で何もできない男を、河瀬は放っておけない。何度も死のうとするところを目の当たりにして、河瀬はその度に柴岡の自殺を食い止めてしまう。何度も何度も放って置こう、自分には関係がないと言い聞かせても、どうしても柴岡をそのままにできない。自殺するつもりで身辺整理をしていて、親戚も肉親もいない柴岡には、どこにも行く場所がない。だから河瀬は、自分の家に柴岡を居候させて、彼の面倒を見る羽目になるんですね。

河瀬って男はいつだって、自分が一番可哀想、なんですよ。
考え方も健全で、一般的ではないものは受け入れられない、自分の常識は相手の常識、理解できないものはすぐに批判する、自分が人からどう見られるか、自分の行動が世の中から批判されるかされないか、そういう事ばかり考えている、エゴの塊のような男で、そしてそれは、世の中生きている人間皆そうよ。だから、河瀬は世間一般の自分たちそのものなんだよ。
自分が一番可哀想、自分はいつだって被害者で、目の前で死のうとしている人を無視できないのは、人の死に責任を負いたくないからだ。自分が殺したと思いたくないから。河瀬は特別ではなかった、全然。
だけどね、そういうエゴと世間体に縛られていて、他人の死に責任を負いたくないという気持ちも勿論あっただろう。何度も何度も柴岡を助ける河瀬の行動は、他人の死を前にする時の人間の、本能でもあると思う。だけどもう一つ、柴岡に対する情でもあると思うんです。これだけ長い事関わっている人間の死を、もう自分と無関係にはできない。面倒くさいし、気持ち悪い、嫌いでしょうがない、そう思う時もあるだろう、だけど、その人間が目の前からいなくなったら、途端に自分は均衡を失う。河瀬は柴岡に長い時間を掛けて関わっていく中で、彼に対する深い情を育てていたんじゃないかな。

何が河瀬にこれをさせるのだろうって、ずーっと思いながら読んでたんですよね。勿論、出て行けという事は死ねという事だ。関わった人を殺すことはできない。知らないふりはできない。だから出て行けと言わない。自分が手を下す事もできない。殺人なんて冗談じゃない。
それでも、だからと言って河瀬のように、彼に着替えをさせて、怪我の状態を気にして風呂に入れてやって、仕事を早く終わらせ自分の睡眠時間を削って、病院に連れて行く事ができるだろうか。
河瀬は苦しんでいた。何故自分がここまでやらなければいけないのか、何故自分はこんな事をやっているのか、期限のあることなら幾らか我慢ができる、でもいつ終わるか分からない。
どうして河瀬にこんなことができたのか。
勿論河瀬の性格の所為もある。この人の真面目さ、誠実であろうとする倫理観、凄いと思う。だからこそ、取引めいたセックスであんなにも傷ついた。そういう人間性を持った人だとも思う。
でも、それだけではこれはできない。自分可愛さに放り出す事はできる。幾らでもできる。
それはやっぱり、情が移っていたからだと思う。
自分では何もできない、目を離したら死んでしまう、自分が関わらないと生きていないという存在が側にいる事って、…なんていうかな…自分が生きる事にまで深く関わってくるんじゃないかと思う。いつしか自分と切り離せなくなる。自分の生活と自分の内側深くにまで、入り込んでしまってるんだと思うんですよね。

河瀬は本当に苦しんで、独りよがりだったり、自分勝手だったり、物凄く人間的な感情をむき出しにしながら、それでも柴岡と向き合っていく。何度も逃げるんだけど、向き合わざるを得なくて、柴岡と一緒にいることで、河瀬は自分の中の混沌を、これでもかと見せ付けられるんですね。人を見殺しにしてはいけないという本能、生きているものを救うのは当たり前の事だ、でもなんでだ、今放り出しても誰も自分を悪いとは言わない、今この手を離しても、自分が殺したことにはならない、自分はこんなにも他人の為に尽くしている、これだけ頑張ったなら、もういいんじゃないだろうか、このくらい頑張れば、この人が死んでも自分は悪くないんじゃないだろうか、でも自分でこの人の手は離せない、それなら自分が知らないうちに死んでいてくれたらいい、事故にあってくれたらいい、でも実際この人が命を捨てようとすると耐えられない、絶対に死なせてはいけないという思いが湧き上がる。鬱陶しい、消えて欲しい、だけど怪我した手を濡らさないように、必ずビニールで覆ってからシャワーを浴びせさせる。みっともなく汚い男、薄汚れた男、そんな男を冷めた目で客観的に見つめながら、それでもその男の為に睡眠時間を削る。
矛盾、葛藤、倫理観。河瀬は本当に苦しむんです、あまりに苦しいから、河瀬には長い間見えない。たった一つ、柴岡の中にある長い間の恋心が見えない。

柴岡はずっと河瀬が好きだったんだと思う。
ただ自分の好きだった人とセックスをしたかった。好きだと言って彼に答えてもらうというようなことが思いつかない、いつか死ぬ自分だから、セックスだけできればいい。
北海道にやってきた彼に色々手を差し伸べたのも、ただ彼によくしてやりたかったからだと思う、河瀬の顔が見たかったからだと思う、それから河瀬に何をしてもらおうとも思ってなかった筈だ。せめて彼の手に掛かって…というような事は考えただろうけども。
東京に出てきたのだって、挨拶回りみたいな事言ってたけど、ただ河瀬に会いたかったからだと思う。本社に行けば一目だけでも河瀬に会える。
好きだと言う気持ち、その気持ちの扱い方をこんなにも知らないなんて、なんて憐れな男だろう。相手に気持ちを貰おうだなんて事を、全く思いついていない。
だから、河瀬に自分の気持ちを伝えようという発想が全然ないんですよね、誰もがそう思っていい筈の恋心、恋心をどんな風に消化するのかが分からないこの柴岡という男…この人が自分を壊していった年月を思うと、物凄く胸苦しい。
だって、柴岡さんが、何の悪い事をしたんだろうって、思うんですよね。
責められるとしたら、河瀬を脅迫したことだけじゃないだろうか。それ以外、その前も、その後も、だってあまりにあまりな人生じゃないですか。そんな、何かに捧げるような、全て吸い取られるような人生…自分がそれでいいと言うならその時は良かったのかもしれない、でも結局良くはなかったじゃん、その後の事を考えると。結局母親は死ぬし、自分は母親とは別の人間で、自分はこれから生きていかなきゃならないでしょ。生きていけば他人と関わる。人を好きにだってなるだろう。せっかく好きになった人に、こんな風にしか接触できなかったという事が、この人がこれまで受け入れざるを得なかった人生の結果なんだよ。
で、目が見えなくなってさ、暗いとこが怖いのに、毎日暗闇に一人でいた。それを、怖い、寂しい、一緒にいて欲しいって、言えばいいって事すら知らない。
可哀想だよ…あんまりにも、あまりにも希望がない。寂しい。
髪の白さも、この人の外に出さない内面の苦しみを物語っている気がする。そんな短期間に、そんなに髪の毛が白くなってしまうほど、苦しんだんじゃないだろうか。

柴岡さんは怒らなきゃいけなかったと思う、理不尽でも、とにかく誰相手でもいいから、柴岡さんに足りないのは怒ることだよな。そういう状況に陥ったこと、自分の人生を全部母親が持って行ってしまった事、もっともっと怒るべきだ。
それに反して河瀬は、全てを他人のせいにできる無神経さも持っているし、理解できないことに怒るということができる。何でもかんでもすぐに怒る。
…と考えると、怒ると言う事は、物凄く人間らしい感情なんじゃないかなって思う。
柴岡さんは、あのままじゃダメだったんだよ、本当にこの日に自殺するって決めていた日に自殺して、それでいいって思っていたんなら、何であの日河瀬を脅してまでセックスしたの、柴岡さんは自分の恋が欲しかったんだよ、心のどこかで自分の人生が欲しかった、だってそれが人間だと思うもん、河瀬を好きになって、彼と繋がりたいって思った時が、柴岡さんがやり直すチャンスだったんだと思う。何度も自分で捨てようとしたチャンスではあるけども…まあ結果的には。

柴岡の中の恋心、これさえ見えれば、河瀬にとってもいろんなことが凄く楽になる筈で、実際それに気付いた瞬間から河瀬と柴岡の関係は形を変えていく。
相手が自分を好きだと思えば、これまで見えなかったものも見える。相手の嘘も見えるし、昨日と同じ態度でも違って受け取れる。だから、セックスをするようになって、河瀬の中に生まれていた情が、好きだと言う恋愛感情に変わるのも、不自然ではないように思った。
理解できない相手が自分を好きだと言ったなら、相手の欠片でも掴んだ気になる。そんな相手を好きになれれば、苦しかった河瀬の気持ちも、幾らかマシになる。自衛の為に、自分が居やすい様に心が働いたって事もあるだろうし、体に引き摺られる事も勿論あるだろうし…散々彼が分からない、苦しい、放り出したい、と言った追い詰められた精神状態が、やっと見つけた落ち着ける場所が、彼と自分の間の肉体関係だっただろうし、今度は肉体関係しかないという罪悪感を助けてくれるのが、恋愛感情だっただろう。
まあでも、そんな切っ掛けは何でもいいんだろうけど。自分が全ての世話をしていた男、面倒で気持ち悪くて、だけど放っておけなかった男、嫌いでしょうがなかったのに、自分にだけ反応する男。死ぬか、自分と関わっているか、どちらかしか選べない男。…そんな男を、"愛しい"と思った瞬間に、自分の全てはこの男に吸い取られるだろうと思う、そりゃもう、助け舟とばかりに、その感情に縋りつくような気がする。その"愛しい"って感情、相手を好きだと言う気持ちは、全てを救ってくれるんじゃないだろうか。

ずっとずっと柴岡の心の中にあるものは、読んでる方に感じられてはいても、最後まで柴岡の口から語られる事はなかった。
だけど、最後のシーン、何か解放されるシーンみたいだったよな…。きっとそれを自分の口から外に出した事はなかった筈でしょ、口に出すって事は凄く何か…これまでの何かを変えることだと思うんですよね、柴岡がやっと河瀬に、恨み辛みを口にした、この事は凄く大きかったと思う。それから、柴岡が河瀬の下を出て行く最後の夜に聞いた、河瀬の言葉。考えても見なかった、自分たちの未来。それが柴岡の心を少しでも開いた切っ掛けである事は間違いないよな。
そして柴岡が言う一言、君はいつも自分の手を引く、だから……云々…というこの台詞に、柴岡が河瀬にどれだけそれを求めていたかっていうのが初めて形になって、ボロボロボロって涙が出て、そしたら次に河瀬が、柴岡と一緒にいる事で悩んで苦しんでたった一つやっと分かったこと、柴岡が自分だけにずっと助けを求めていたということに気付いてくれて…もうこの2つの台詞に、ぶわ〜っと体の底から何かこう、せり上がって来る感慨があって、切なくて、安心して、もう、なんとも言えない気持ちだった…。

これからもまだ、苦しいだろうなあ…。
苦しいだろうけど、柴岡は一つ確実に、何かを捨てたと思う。全部じゃなくても解放されたと思う、どこか一部分は。
これから長い人生、河瀬と生きられたらいいと思う。少しでも幸せに生きて行って欲しい。

凄く苦しかったけど、凄くいい小説だったと思います。
なんつうか、逃げられない業みたいなものが、これでもかと容赦なく書かれていたし、突きつけられていた。
もっとたくさん色んなことを思ったと思うんだけど、一度に文字にするには限界があるので、また今度思いついて、気力があったらまたこの本の感想を書きたいです。

あとこの重く苦しい話に、河瀬の扱っているカニ風味なんとかというお菓子の名前が間抜けで、なかなかいい小休止になっていた気がするな。気が抜ける瞬間なんだよね、カニ風味なんとか。

あ、それと日高さんの絵が本当にまさしく素晴らしかった。
この素晴らしさをもっと語りつくしたいんだけど、もう疲れたのでまた今度…。いや本当に日高さん最高に良かった。

何を書けばいいのか分からないって言いつつ、こんなにも書いてしまった。
いや、何を書けばいいか分からないからこんな支離滅裂にぶちまけてしまうことになる。




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Catergory in [novels]木原音瀬 comments(0) trackbacks(0)
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